ミキシングについて
このシリーズではミキシングの基礎を学んでいきます。「ミキシング」とは、すでに完成済みのトラックや録音済みのトラックの音量、音色、パンニングなどを調整しバランスを整えていくことです。調整を丁寧に行うことで、いわゆる「プロっぽい」音質になります。ミキシングは作曲やアレンジと同様にかなり奥が深く、一定のクオリティを超えるには多くの知識、経験が必要です。 ただ一つ最初に言っておきたいのは、ミキシングは音楽制作の後半に位置する工程であるということです。作曲、アレンジがよくなければ、いくらミキシングが良くても意味がありません。また、ミキシングで試行錯誤する前に、アレンジの部分で音色選びや楽器のボイシング等を工夫すれば問題が解決する、といった場合も多々あります。作曲、アレンジ、ミキシング等は密接に関係しており、どれか一つだけを切り離して考えられるものではありません。
ここではミキシングを習得するため、以下のように進めていきたいと考えています。
1. 各種エフェクトの基本パラメーターを覚える
2. DAWのミキサーの構造を学ぶ
3. DAWでのオーディオの取り扱いを学ぶ
4. ミキシングの実践
今回は様々な楽器で使える、「コンプレッサー(通称コンプ)」の基本パラメーターについて学んでいきます。
コンプレッサーの基本動作
コンプレッサーは、ボーカル、ドラム、ベース、ギターなど、ほぼすべての楽器で使用する必須エフェクトです。しかしミキシングを始めたばかりの方からは、コンプレッサーの効果や目的が分かりにくく、何のためにかけているのか、という多いように思います。「音圧をあげる」「音量を揃える」などいろいろ書いていますが、まずはパラメーターをしっかり理解しましょう。実際の使用方法を覚えるのはその後でも遅くありません。
コンプレッサーの基本動作は、
ある一定以上の音量を圧縮して小さくする
というものです。まずこれを覚えましょう。オーディオがコンプレッサーで設定した音量を越えれば、コンプレッサーはそのオーディオに対して音量を圧縮する(compress)する、というわけです。
コンプレッサーの基本パラメーター
それでは、コンプレッサーの主要なパラメーターについて理解していきます。下図はcubaseに付属のコンプレッサーです。ごく普通のコンプレッサーで、特に変わったパラメーターはありません。まずは、以下の6つを覚えましょう。
EX1-1 cubaseに付属のコンプレッサー①スレッショルド(Threshold)…コンプレッサーがかかり始める音量。オーディオがここで設定した音量(dB)を超えると、コンプは動作を始めます。
②レシオ(Ratio)…スレッショルドで設定された音量を超えたオーディオが何分の一に圧縮されるかを設定。値が大きいほど圧縮率は高くなります。
③アタック(Attack)…オーディオがスレッショルドで設定された音量を超えてから実際にコンプが動作を始めるまでの時間(ミリセカンド)を設定。
④リリース(Release)…オーディオがスレッショルドで設定された音量より小さくなってから実際にコンプが動作を止めるまでの時間(ミリセカンド)を設定。
⑤メイクアップ(Make-Up)…コンプがかかった後で音量をあげるパラメーター。
⑥ゲインリダクション(GR)…元のオーディオに対し、コンプで何dBの圧縮がかかっているかを示します。これは単なるメーターで、ツマミ等はありません。
スレッショルド
ここからは各パラーメーターを詳しく見ていきます。まずはスレッショルド(Threshold)。コンプをかけている音(オーディオ)が、スレッショルドで設定した音量(dB)を超えたときに、コンプレッサーは圧縮を始めます。
まずdBから簡単に説明しましょう。dBは音量を表す単位でDAWのあらゆるところで表示されています。基本的にDAWでは、0dBを超えると歪み(クリップ)が発生しノイズとなります。つまり0dBが一番大きい状態と考えて差し支えないでしょう(厳密には違いますが今はそう考えたほうがわかりやすいでしょう)。よって、cubaseのコンプレッサーのスレッショルドも、0dBが最大値でそこから下げていく形になります(左に回すとスレッショルドが下がっていきます)。
下図はスレッショルドのイメージ図です。スレッショルド1(緑)では、Aの音のみにコンプがかかり、スレッショルド2(赤)ではA, C, Dにコンプがかかります。このようにスレッショルドはコンプレッサーをかける範囲を決定することができるのです。この図の場合、スレッショルド2の設定のほうが、コンプが「深く」かかっていると言えます。
EX1-2 コンプレッサーのスレッショルド下はEX1-2をイメージした音です。スネアにコンプをかけ、「コンプなし」→「スレッショルド1(浅い)」→「スレッショルド2(深い)」の順で再生されます。スレッショルド以外の値は同じにしています。「コンプレッサーは、音を圧縮するエフェクト」なので、深くかかった音が最も圧縮率が高く、小さく聞こえます。
EX1-3 スレッショルドを変えるレシオ
レシオ(ratio)は、「スレッショルドで設定された音量を超えたオーディオが何分の一に圧縮されるかを設定」します。以下の図では、A, B, Cそれぞれの音がスレッショドを超えており、数字はスレッショドから何dB超えているかを示しています。
EX1-4ここから、レシオの値を上げていくと、「スレッショルドを超えた音量」に対しコンプが深くかかっていきます。例えばレシオが1のときは、コンプは一切かからず、2のときは超えた音量が1/2になります。3のときは1/3になり、4のときは1/4です。割り算すればいいだけなので簡単だと思います。そして、レシオの値が高ければ高いほど(例えば100など)、スレッショルドを超えた音はペチャンコに潰されていく形になります。
EX1-5下はEX1-5をイメージした音です。スネアにコンプをかけ、「レシオ1(コンプはかからない)」→「レシオ2」→「レシオ100」の順で再生されます。レシオ以外の値は同じにしています。3つめがコンプが最も深くかかっているのがわかると思います。
EX1-6 レシオを変える音だけを聞くと、スレッショルドとレシオの効果の違いがいまいち分かりにくかもしれませんが、2つを上手く組み合わせて設定していきます。例えば「コンプをかける範囲は狭くして(スレッショルド浅い)、圧縮は大きくかける(レシオ値大きい)」とか、「コンプをかける範囲は広くして(スレッショルド深い)、圧縮はあまりしない(レシオ値小さい)」といったかけ方ができるわけです。
今回はここまでです。次回はアタックとリリースについて解説します。